少子化直撃・ハラスメント問題で自衛官採用に逆風…最前線の「士」、予定の6割しか採用できず

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ハラスメント対策、処遇改善急ぐ

自衛官の採用活動に逆風が吹いている。少子化の直撃を受けているうえ、ハラスメント問題に揺れた昨年度は、最前線で活動する自衛官を予定の6割しか採用できなかった。人材確保のあり方を議論してきた防衛省の検討会は今月、ハラスメントの根絶や処遇の改善など抜本的な改革を提言しており、自衛隊は対応を急ぐ。

真夏の日差しが照りつける東京・秋葉原。21日昼、制服姿の高校生に自衛官が駆け寄った。「自衛隊です。全国でイベントをします。ぜひ来てください」。大粒の汗を流しながらチラシを渡していった。

 防衛省は8月末まで、各地の施設で艦艇の一般公開や部隊の見学など約600の交流イベントを開く。これまでにない規模のキャンペーンで、この日は錦糸町や水道橋などの繁華街でもPRに励んだ。

来春卒業予定の高校生に対する採用広報活動が解禁されたのは1日だ。陸上幕僚監部募集・援護課の松元三展1佐は「この夏が採用活動の天王山という気持ちで臨んでいる。自衛隊の勤務環境や雰囲気、成長する過程を懸命に伝え、まずは興味を持ってもらいたい」と強調する。

定員約24万7000人の自衛官は、〈1〉最前線で活動する「士」〈2〉部隊の中核となる「曹」〈3〉それらを指揮する「幹部」などに分かれている。特に採用が難航しているのが士の階級だ。

 防衛省によると、士の採用率は過去10年間、8割から10割で推移してきた。しかし、昨年度は1万6225人の必要人員に対し、確保できたのは1万120人で、採用率は62%に急落した。士階級の中でも、2~3年間の任期で活動する「自衛官候補生」の採用率は43%にとどまる。

 背景には、コロナ禍で採用を控えていた企業の求人が回復したことや、ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにし、子どもを入隊させることをためらう親が増えたことがあるという。陸自の元女性自衛官が性暴力を受けた問題が発覚し、同省が全隊員に特別防衛監察を行う事態となったことも影響したとみられる。

 今年度に入っても、自衛官候補生による銃撃事件が起きるなど、採用活動には逆風が吹いている。

 防衛省幹部は「士階級は体力のある若者が中心で、それが集まらなければ、自衛隊の力が徐々にそがれてしまう」と危惧する。

Z世代

 採用の対象となる18~32歳はネットに親しんだ「Z世代」だ。防衛省は勤務環境の改善を急いでいる。

 数か月に及ぶ長期航海の任務がある海自は、乗員がスマホで家族らと連絡できるように、米宇宙企業スペースXの衛星通信網「スターリンク」の高速通信サービスの導入を検討している。現在も限られた区画で無線LANが提供されているが、通信速度は遅く、若い隊員らに不満が根強いためだ。

 議論は髪形に関するルールにも及ぶ。例えば空自では、男性隊員に側頭部を短く刈り上げる「ツーブロック」にすることを禁じている。陸自では女性隊員に「ショートカットが望ましい」とし、ポニーテールにしないように求めている。主に制帽や装備を身につける際に妨げとならないように設けた規則という。

 しかし、検討会の報告書は自衛隊内のルールについて、「国民の信頼が損なわれない範囲で、合理性に乏しいものは変更・廃止すべきだ」と指摘した。

 報告書は、自衛官の給与・手当の増額などにも言及し、ハラスメントについては「一切許容しない組織環境が不可欠」と強調した。同省はこうした提言を踏まえ、改革を進める。

「人材採りこぼさぬように」

 厚生労働省が公表している昨年の出生者数は過去最低の77万人で、200万人前後だった1970年代と比べ半数以下となっている。少子化が進む中で、将来の募集環境はさらに厳しくなることが予想される。

同志社大の太田肇教授(組織論)は「Z世代は縦の人間関係を避ける傾向があり、組織内でハラスメントが横行していれば敏感に感じ取る。少子化が進んでも、自衛官の仕事にやりがいを見いだし、目指す若者はいるはずだ。こうした人材を採りこぼさないように、ネットを駆使し、組織改革も進める必要がある」と指摘する。

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